メッセージ

スウェーデンから帰ってきて

日本の高齢者施設の現状を見る

株式会社リゾートケアハウス蓼科の社長で、看護師、教育者でもある、ホルム麻植佳子(ほるむ おえ けいこ)です。生まれも育ちも大阪。いやなものはいや、いいものはいい。思ったことを実現するために生きている、そんな性格です。日本で看護師の資格をとったあと、スウェーデン人の夫と結婚し、一児を出産。1976年から1983年の間に、縁あってスウェーデンの医療や介護の現場で働き、教える機会がありました。家族で帰ってきたのが1985年です。

麻植社長

福祉先進国のスウェーデンでの経験を生かし、帰国してからは日本各地に高齢者施設やグループホームをたちあげるコンサルタントとして仕事をしていました。その関係で日本全国の高齢者介護を視察したのですが、施設に一歩入ると、どことなく便や尿の匂いがしているし、寝かせっきりにされた高齢者は、人として扱われていない。あまりのひどさにびっくりしました。そして、利用者も職員も疲れ切っている様子を見て、悲しくなりました。

歳とったら、みんな子どもに還るなんてこと、ないですよね。なのに、デイケアでは年寄りは保育園児扱い。「むーすんで、ひーらいて」なんて手遊びをしている。食事になったら、みんな並ばされて「ごーはんだ、ごはんーだ」って歌わされる。「なんで、こんなことさせなあかんの!」と思いませんか? お風呂だって、機械浴で次から次へ一時間で20人も入浴を済ますようなことで「いい湯だ、ほっとした〜」と思えるはずがない。自分なら、こんなところで死にたくない。自分の父や母を入れたくないと思いました。

自分が将来入りたい!と心から思える

人の尊厳が大切にされる高齢者施設

このような日本の高齢者施設の現状を見れば見るほど「自分が入りたい!」と思える施設を「自分で立ち上げるしかない!」と考えるようになりました。理想の高齢者介護施設をつくるのに長野県茅野市というロケーションを選んだのは、ここには自然が豊かで、心が広々するような景観があるからです。そして、根っからの地元の農村の人と、別荘地住まいの都会的な人とが混じり合って住んでいるのも面白い土地柄だと思いました。

私の考えの真ん中にあるのは「いのちはみな平等」という、ごくシンプルなことです。私が自分のいのちを大事だと思うのと同じように、あなたのいのちも尊重する。それが「いのちの平等」ということです。年寄りだから、病気だから、障害をもっているからといって、権利を奪われたり、尊重されないことがあってはならない。みんな等しく人間らしく生きられ、人の尊厳が大切にされることが基本。そのような関係性を実現できる高齢者施設として、認知症の方のためのグループホームを2つ、介護付き有料老人ホームを1つ、住宅型有料老人ホームを1つ経営しています。

利用者さんに寄り添って

それぞれの施設の現場で

クリエイティブな介護を

「みな平等」というのは、職員と利用者との間だけでなく、雇用する者とされる者の間でも同様です。経営者も、現場で働いている者も、お互いに思っていることを言い合える、平等な関係でなければならないと私は思っています。

4つの施設は、それぞれのチームで発想したことを自立して実現できるよう、トップダウンの指示ではなく、チームの裁量権を大きくしています。地域も、利用者も、はたらいている人も違うそれぞれの現場では、ニーズも違うはずだからです。「してあげたいことを、実現できる」ことで、その人に合った、人間らしい介護ができるのですから。

そのような介護は、画一的なマニュアルとは程遠い。じつにクリエイティブで、やりがいのあることです。「あの人にふさわしい介護って、どんなだろう?」とチームの中で対話し、調整し、試みる。結果をフィードバックして、次につなげる。そうした積み重ねの上にこそ、ひとりひとりを大切にする介護ができるのです。

ホルム麻植佳子Holm Oe Keiko

日本専売公社東京病院看護学院卒。看護師として1年間勤務後、ネパールへの医療ボランティアに参加。1974年スウェーデン人のホルム氏と結婚。76年にロクスタ長期療養型病院に勤務。81年ウブサラ大学医療従事者スウェーデン語課程を修了。83年帰国。
87年に日本健康センターにアクティバケアセンター所長として勤務。89年株式会社ビジケアサービスを設立。本格的に高齢者施設やグループホームをたちあげるコンサルタント業務を進めるかたわら、関西電力病院付属高等学校、佛教大学、滋賀医科大学、産業医科大学などで教鞭をとる。96年佛教大学大学院教育学修士課程修了。2004年、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士 後期課程満期退学。05年株式会社リゾートケアハウス蓼科設立。

著書・監訳書
スウェーデンのグループホーム物語』 監訳(ふたば書房 1993)
福祉ってなぁに : 人として親として看護婦として』(ふたば書房 1995)
プラスαの介護知識』 共著(日総研出版 1998)
介護の現場から : 悩み解決の糸口を求めて』 共著(一橋出版 2000)
介護福祉士国家試験最新キーワード』(一橋出版 2002)
生きがいの見つけかた:看護・介護界の革命児が手ほどきするしあわせな老後を迎える方法』(ワニブックス 2003)
Home care in Japan, now』(国立国会図書館・大学図書館収蔵論文 1999)

スウェーデンのグループホーム物語
スウェーデンのグループホーム物語
福祉ってなぁに
福祉ってなぁに
生きがいの見つけかた
生きがいの見つけかた